平成4年頃、不動産会社「桃源社」佐々木吉之助社長は、赤坂見附駅からほど近い港区の一等地に8階建ての「第54桃源社ビル」を所有していました。
資金繰りに行き詰まり建築代金の一部を未払いにしたため、ゼネコン社員が入り口にバリケードを張り巡らせて封鎖していたところ見知らぬ男たちが出てきました。
110番通報で駆けつけた警察官や社員らが男たちを問いただすと、
「ここは、おれたちが桃源社から借りたんだ」
と言い張り凄んできたため、社員らは帰るしかありませんでした。
帰って登記簿を調べてみると、横文字の聞いたこともない名前の会社が所有権や賃借権移転の仮登記をしていたほか、さらに別の会社に賃借権仮登記が設定されていたのです。
もちろん思い当たるフシはありました。
佐々木社長は以前から不動産売買の仲介やテナント探しなどを頼んでいたブローカーに、印鑑証明など登記に必要な書類を預けていました。
そのブローカーを問い詰めると不動産業者に渡したことを認めました。
業者はビルに最初の仮登記を行った会社でした。
調べていくと、ほかの物件にも次々と賃借権が設定され、最終的には桃源社が所有する約600室のうち、70室以上が不法に占有されていたのでした。
これらは山口組のフロント企業や、それに近い関係者でした。
フロント企業はかつて企業舎弟と呼ばれ、暴力団が親族ら関係者名義の会社を構えて、これを隠れみのに企業活動を行っていたのです。
佐々木社長によるとビルを占有する一般的な手口は、まず通常の賃借人としてテナントに入り込み、2か月目ごろから「サブリース」と称して他人に転貸。
転貸を受けた側は「テナント料を払っている」と主張しそのまま占有してしまう。そして最初の賃借人はテナント料を支払わなくなるという形が多いとのことでした。
つづく