占有の手口は法の網をかいくぐるように巧妙化していました。
関東方面のとある住宅街の出来事です。
一戸建てに住む会社経営者は資金繰りに詰まり、知り合いに50万円を借りました。
そのとき担保として自宅の賃借権設定契約書や印鑑証明を差し出したのです。
しばらく経ったある日、帰宅すると数人の見知らぬ男たちに出迎えられました。
玄関には「〇〇商事 占有管理物件」との貼り紙が貼られて、鍵は新しいものに換えられていました。
「ここはウチらが借りている。これが契約書だ。何か文句あんのか」
とすごんできます。
金を借りた知人から占有屋に書類が渡って、賃借権が設定されていたのです。
占有屋はその後、
「賃借権を解除してほしければ600万円払え」
などと要求してきました。
弁護士に相談したものの、訪問するたびに違う人間が居座っていて解決の糸口が見えません。
弁護士は「契約書が次から次へと第三者の手に渡り、占有者の特定すら難しい」と言います。
わずか50万円を借りた結果、自宅を失いかねない事態になってしまったのです。
会社経営者の家族は、本人がカプセルホテル、妻が実家、息子らは勤務する会社に寝泊まりするなど、一家離散の状態を強いられました。
近所の人の話では、深夜になると一戸建ての駐車場に都内ナンバーの高級乗用車が止まったり、暴力団風の男らが出入りして大声で騒いでいることもあったといいます。
これはかつて東京・赤坂に事務所を構ていた占有屋グループでした。
警察関係者によると、総勢30人余りで、複数の指定暴力団と連携し、貸借権を次々と第三者に転売することで、権利関係や占有者の特定を複雑化させ、実態をつかませないようにしていました。
さらに、競売で落札した業者が裁判所の執行官とともに訪れても容易には明け渡しに応じないことから、後年法改正のきっかけともなったのです。