前回からの続きです
「許永中と初めて出会ったんは学生時代や。彼は大阪工大で、学年でワシより四つ、歳で五つ下かな。あれ、大阪工大の柔道部やったんや。
本当、強かったで。大学は中退するけどな。
当時、ワシは梅田のあるところを地盤にしてる組で、パチンコ屋のお守りしてたんやけど、そこでパチプロ集めて稼がせてピンはねしとったのがあいつや。
ほやけど、当時は顔知っとるだけでつき合いはなかった。生きざまがちゃうからな」
「ワシら、パチプロみたいな相手するわけあらへん。パチンコ屋からカネ取ろと思ったら、店員呼んで『コラ、鍵貸せ!』
いうて、鍵外して奥に積んどる玉持って、パーツと換金して行きやええんやから。パチンコ屋で打って稼がへん」
「ワシがアーデルホームにいた頃、いっぺんワシのとこへな、許永中は部落民やないけど、韓国人も差別されてた時やから、まあ早ういうたら無理難題をいうてきた。許永中は大阪では元ヤクザで、部落の支部長やってたある人と仲良くしててな。
ワシがアーデルホームにおるん知らんでや。
それでワシが
『何が部落や!』
いうたら、許永中は
『えらいすいません。なかったことにしておくんなはれ』
いうんで、
『お前、何しに来たんや』と。
まあ、同じ新地でいつも飲んどるし、ほな、皆で一緒に飲みに行ったらええがなと。
彼ちょっとその時、経済的にしんどい時やった。
集金したら右に出るもんがおらんあるヤクザに6、7億円借金してて面倒やった。
それで、『ワシの手形使うたらええわ』って。
その代わり、許は大淀建設を『それだけの値打ちないけど引き取ってください』と。
『いらんがな、そんなもの』いうたら、
『それじゃ、ワシ(の立場)が・・』
いうから、『ほんなら、置いとけや』と」
「許が大きいなったのは日本レースの事件や。人はいろんなこというけど、許永中が経済界でいちばん崇拝しとったのが東邦生命の太田清蔵さんや。
この人にほんまにここ一番の時に助けてもろたんや。この時、助けたのはワシやけど、ほんまの意味でナニしたんは太田さんやから」
「あれは最初、太田清蔵が許永中に依頼し、困り果ててワシのとこに相談に来たんや。三洋興産いうて、当時、東京ではいちばんの仕手筋に53%も株持たれて、経営権の交代請求出してきた。
乗っ取りやんか。
当時日本レース社長だった山野愛子に何とかしてくれいわれても、総資産が250億円 で借り入れ金が17億円しかないんじゃ、東京のボンクラが目先効かして当然や。
許永中が『誰も助けようおまへんやろ』
いうから、
『お前、考えてみいや。処女やから三洋興産は来とんねん。これがズブズブやったら手ださんやろ。手形切らんかい。200億円切れ』と。
すると、『何で切りまんねん』いうから、『お前、ヒューマンソサエイティーいう宗教団体あるやろ。 ここと三井建設がフィフティー、フィフティーで神戸に100万坪の山持っとる。あれええやないか。あれ買わんかい』と。」
「保釈中の失踪は本人なりの考えでやってることやろ。イトマン事件は、ワシは許は執行猶予取れる流れ違うかなと思うとる。絵画は、あれ売買とちゃうからな。
本来、許永中個人の借り入れのもんやから。
あれ、500億円で許永中がイトマンに絵画を売っとったら問題やけど。
ただ、イトマンが売ったことにしてくれと頼んで、後で売買のかたちにしただけのことやんか。ほやから、横領したことにならへんから。
ただ借りたカネ返さんだけのことやから。
そんなことで有罪にしたら、カネ返せん日本人は皆、バクられんといかん」
「イトマン裁判の見通しがついたから、本人の持ち前の気性で前向いて走ったやろうけど、今回の石橋産業の件な、これとかな、偉い人とのつき合いを大事にして、これはやっぱり本人のこっちゃから、絶対にそこらワシらの持ち合わせしているもんより遥かに器量持っとるから、警察にしゃべることないがな。
ところが、やっぱり日本を動かしているような人とのつき合いも今日あるわけだから、許永中本人から身を引くと。
自分が言わなくても、偉い先生は警察の厳しい聴取に対して案外脆うて言うてまうかも知れん。
自分が捕まったら、その参考人として先生が引っ張られる。
やっぱり日本の権力もそんなバカじゃないからな。
そういう場面を作ることが嫌やから身を隠したいうのが本人の本心やろ。
ワシは仕事手掛けたら最後までやる。
彼の場合は仕事一つ網かけて、カネがやってきたら後は皆、好きにしたらええと。
本人が聞いたら気悪くするけど、ワシは自分は事業家やと思うとるし、許は虚業家いうたら怒りよるけど、実業と虚業の違いや。
一般の人が分かるようにいうたらな。
本当は全然違うけどな。本人にしたら、
『そうせんと数多くの仕事、大きな仕事ができんでしょう』と。
いつもワシにそう言うとった。
それはお前の考えやと。
ワシはやっばり仕事いうのは一度手掛けたら最後までやって、ゼロから百にして、それが損するか得するかは問題外で、要は仕事いうのはそういう事やろと。
スタート切って、向こう岸に着いたんが仕事やと。
これは自ら持った人生観の違いやからな。
そやから一緒に許永中と仕事したことない。
それでも互いに無理してカネを動かさんならんことしとったから、名前連ねて手形裏書きして。
そんな協力したぐらいや」
「殺しても死ぬ男と違う。細心のもん持ってるから、ワシの何倍も。ワシも一般人よりは細かいこと気つけるけど、ワシかて面倒臭いぐらい細心。たいしたもんや。だから、時効の7年経った時、姿見せるかもな」
つづく